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ティム・バーナーズ=リー卿、慶應義塾大学名誉博士称号授与式・記念講演会レポート

2017年3月20日

3月14日、慶應義塾大学の三田キャンパスにて、Webの生みの親として知られるティム・バーナーズ=リー卿に対する慶應義塾大学名誉博士称号授与式及び記念講演会が行われました。

このインターネット・アカデミーブログの読者の方には、もしかしたらティム・バーナーズ=リー卿に関する説明は不要かもしれませんが、簡単にご紹介をさせていただきます。ちなみに、本来であればティム卿とお呼びすべきところですが、私がW3C/MITに客員研究員として過ごしていたときには、「ティム」と呼ばせていただいていたので、この記事内でも愛情を込めて「ティム」と記載させていただきます。

Webの誕生と理念

さて、本題のティムについてですが、ティムは、現在マサチューセッツ工科大学コンピューター・人工知能研究所の教授であり、W3Cのディレクターというポジションについています。1989年に、当時ティムが勤務していたCERN(欧州原子核研究機構)の上司にWWWプロジェクトを提案し、1991年にHTTP、HTMLやURLといったWeb技術を使い、そしてWebサーバーとWebブラウザを開発しました。これがWeb誕生の瞬間ですね。

World Wide Web Consortium(W3C)ディレクターのバーナーズ=リー氏は、現代情報社会の基盤であるWorld Wide Web (WWW)の基本技術の発明および基幹となるシステムを開発し、1990年に世界で初めてのWebクライエントとWebサーバを作成しました。同氏の提案であるURL、HTTP、HTMLの各仕様はWeb技術が普及するに伴い、「いつでも、どこでも、どのデバイスからも」の理念に基づいたWebの利用を可能にし、世界の人々の生活を劇的に革新させました。そうした功績を高く評価し、名誉博士の称号を授与することになったものです。

慶應義塾大学Webサイト「ティム・バーナーズ=リー氏に対する慶應義塾大学名誉博士称号授与式、記念講演会開催」より

ノーベル平和賞の候補にも、毎年のように上がっているティムですが、やはりWebを発明したことは、世界に大きな影響を与えていますね。特に、個人的には、慶應義塾大学のWebページも記載されている「いつでも、どこでも、どのデバイスからも」という、このWebの理念が、今のWebの普及率に繋がっているのだろうなと感じています。

三田演説館で実施された名誉博士号授与式

さて、ティムの慶應義塾大学名誉博士号授与式の当日に話を戻したいと思います。名誉博士号の授与式は、三田キャンパスにある三田演説館で実施されました。余談ではありますが、この三田演説館は、国の重要文化財指定建造物に指定されている由緒ある建造物なんですね。1875年に慶應義塾の創立者である福沢諭吉が建設を進めたそうなのです。今では、名誉博士号授与式のような特別な用途のみで使用されているようですので、ティムのおかげでとても貴重な場所に入らせていただくことができました。

三田演説館では、慶應義塾大学の学生音楽団体のアカペラ合唱が流れる中で、授与式が実施されました。日本のインターネットの父として知られる村井純教授からの名誉博士号推薦状が読まれ、その後、慶應義塾長からの授与が行われました。

記念講演で語られたティムの理念

授与式のあとは、記念講演会が開催されました。授与式の参列者は、招待客に限定されていたのですが、記念講演会は誰でも参加できるということで、会場には多くの聴講者がティムの話を聞きに来ていました。慶應義塾大学の学生はもちろんのこと、社会人の方や、高校生の方もいました。

分散型と集中型のインターネット

ティムの話の中で、特に私が興味深く感じたのが、「分散型」と「集中型」という話でした。ここでいう分散型というのがWeb上に置かれる情報が様々な場所に点在していて、そのデータに誰もがアクセスできるというオープン性を語るために使われていたのかなと感じました。ティムが「ロングテール」という表現もされていて、たとえ薄い情報でも誰かが持っている情報がWeb上では拾うことができるという、その有用性や拓けた空間というのがWebの基本理念であるということを強調していたように思います。

一方で、現在のWebはどうなっているのか?たとえば、巨大SNSの投稿される情報というのは、あくまでも各SNSにログインをすることによりアクセスができるようになるため、クローズドな空間になってしまっているという状況だというお話でした。それが、集中型のデータ管理状態になっていて、Webの本来のオープン性が失われてきているのではないか、ということがティムにとっての懸念事項になっているようでした。

また、Web上でのマネタイズの仕方も、Webのあり方を変えてしまっているという懸念もあるというお話がありました。それは、クリックを稼ぐことが収入に繋がるという可能性が出てきているため、刺激的な文章を書いて、ただただアクセスを増やそうとしてしまう問題も発生してきているからです。顕著な事例が、2016年のアメリカ大統領選でのフェイクニュースです。他にも、こういった刺激的な記事や、または差別的な発言などが拡散されやすいという現象が起きているというのも、本来、Webの中立性やオープン性という視点からはずれていっているという懸念点をあげられていました。

This is for everyone

ところで、みなさん。2012年ロンドン五輪のオープニングセレモニーを覚えていらっしゃいますか?ロンドン五輪のオープニングセレモニーでは、イギリスの産業革命をテーマにステージが繰り広げられましたが、最後の最後で登場したのが、まさにティム・バーナーズ=リーでした。Webの発明が、イギリス国内だけでなく、世界を大きく変えたのは言うまでもありません。

講演の最後は、このエピソードで締めくくられました。ロンドン五輪のオープニングセレモニーの演出では、ティムがステージ上からTwitterでつぶやくということが決まっていたそうです。そのときに何をつぶやくか。そこでティムが選んだ言葉が、「This is for everyone」でした。Webには国境はない。インターネットの中立性や、サイバースパイ行為との戦いなど、Webをオープンにし続けるために戦いたいという、この講演全体を通して語られていたティムの信念のようなものを感じました。

これはすべての人のためのものです

ティムの講演の締めは、この言葉を日本語で話して、終了となりました。

終わりに

ティムの講演を聞いていて、冒頭で紹介した「いつでも、どこでも、どのデバイスからも」というオープン性や中立性というものにて対するティムの強い思いを感じました。Web技術教育にたずさわる者として、この理念を広げるためにやるべきことはまだまだたくさんあるな、と感じた次第です。

最後になりますが、本記事の内容は、あくまでも山田がティムの講義を聞いての感想に近いものであり、ティム自身の発言の意図を間違って認識している可能性もありますので、そちらをご容赦いただき、お楽しみいただけますと嬉しく思います。

本ブログは、日本初Web専門スクールのインターネット・アカデミーの講師が運営するWebメディアです。 スクールの情報はもちろん、最新のWebデザイン・プログラミング・Webマーケティングについて役立つ情報をご紹介しています。

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現在、マサチューセッツ工科大学のW3C本部に在籍し、HTML開発とインターネット・アカデミーのカリキュラム開発を担当する。

海外支店責任者として、アメリカとインド、日本を行き来する。5年間、マサチューセッツ工科大学のW3C本部に在籍し、HTML開発と普及活動を行ってきた経歴を持つ。

日本の新宿校、渋谷校インストラクター。主にWebマー ケティングとクリエイティブ系の授業を担当。

バンガロール校インストラクター。デジタルマーケティング が専門分野。

Google認定Webマーケティング講座の企画・開発に携わる。「PHPカンファレンス2011」で講演。「PHP公式資格教科書」の執筆など

バンガロール校支店長。Webプロデューサー、インストラクター、エリアマネージャを経て、現在はグローバル展開のビジネスディベロップメントを担当。

「W3C"HTML5 Tour"」での講演や、インド校にてWebデザイナーおよびチーフインストラクターを勤めた経歴を持つ、人気キャリアプロデューサー。

フランスにあるW3CのEUホスト、ERCIM(欧州情報処理数学研究コンソーシアム)に常駐し、Webの研究を行うインド人インストラクター。Webマーケティングに精通している。

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